2010.10.30 Saturday

喧嘩

漫画にしようかと思ったけどなんとなくSSに書きおこしてみた文章。
シュンダンだけど、見ようによってはエーダン←シュンに見えるかも。
+++++++++++++++++++++++++++++++

「聞いてくれよ、シュン!アイツ……」
「……なんだ、ダン。またエースと喧嘩か」

この2人が喧嘩するのは既に日常茶飯事で、そんな時にダンはいつもオレのところに来る。
俺はといえば、今は自室で本を読んでいたのだが、そんな事はおかまいなしだ。
仕方なく部屋の中に通してベッドに座るように促し、その隣に腰を降ろす。
「まったくエースのヤツ……!」
目は本に向けつつ、次から次に出てくるダンの愚痴を、半分ほどスルーしながら黙って聞いてやる。
毎回よくも喧嘩のネタが尽きないものだなと思いつつ、原因はほとんどが小さな事だったりするのだが。
「よくそれだけ次々と愚痴がでてくるものだな」
「だってよー……」
それでもひとしきりぶちまけて少し落ち着いたのか、小さなため息をひとつついて今度は黙り込んだ。
落ち着いたといっても顔には浮かない表情をうかべたままで。
怒ってはいるが、それでいて少し淋しそうな顔。
昔から、誰とでも喧嘩をしたあとは大抵こうだ。
そんな顔をするぐらいなら最初から喧嘩なんてしなければいいのに、というのはこいつにとっては無理な話だろう。

「謝ってきたらどうだ?」
「なっ、なんでオレが……!」
「お前にも原因の半分はあるだろう」
窘めて忠告してやると、思いきり不満そうな声をあげた。
「えええ。なんだよ、シュンはオレの味方だと思ったのによ〜」
「オレはどちらの味方もする気はない」
「ちえっ」

拗ねてそっぽを向いてしまったダンの顔に、以前は自分と喧嘩した時もこんな顔をしていたなと思い出し、懐かしさにすこし笑みが漏れる。
「?なに笑ってんだよ」
「いや……以前はオレ達もこうやってよく喧嘩していたと思ってな」
小さな頃から俺達は本当に事あるごとに衝突していた。
口げんかからとっくみ合いにいたるまで色々と、喧嘩しては仲直り、その繰り返し。
けれど最近は多少の言い争いはしても、喧嘩らしい喧嘩をする事はほとんどなくなっていた。

喧嘩するほど仲が良い、というのは誰の言った言葉なのか。
今となってはまったくその通りだと頷く事も出来るが、喧嘩をしている当の本人達にとっては一番否定したくなる言葉でもある。
とは言っても、仲が良いこと自体を否定したいわけじゃない。
喧嘩なんてしたくはないのだが、何故かその相手にだけは意地をはってしまう。
当時の俺がそうだったように、今のダンもそんな心境だろう。

「あー……そういやそんな事もあったっけか」
ダンも色々と思い出したようで、少しばつが悪そうに照れて顔をかいている。
「まあ、お前もオレも大人になったって事だよ」
「今さっきまでエースと喧嘩して愚痴をこぼしていたのは誰だ」
「そ、それはー……エースのヤツが子供って事だろ!俺は悪くないっ」
ダンはそのまま不貞腐れて、ばふっと布団にうつ伏せに倒れ込んでしまった。

(まったく、素直じゃないな……)
喧嘩をして後悔してるのは自分の方だろうに。
謝りたくても自分からはそれが出来ない、そんな意地っ張りなダンの性格はオレも熟知している。
ようするに、謝るきっかけを求めてきているのだ。
俺のところに。

「なら、しばらくこのままいるんだな」
「う……」
少し意地悪く言ってやると、困ったようにこちらを少し見て再び黙り込んだ。

いつごろからだろう、こいつと喧嘩をしなくなったのは。
それほど前の話でもないのに遠い昔にも感じて、わずかな淋しさが胸をよぎる。

「……俺だってべつに、ずっと喧嘩してたいわけじゃないけど……」
「そうだな……仲の良い友なら長い間仲違いなどしていたくはないな」
「でもさ……謝ってこないって事は、あいつは別に仲直りしなくてもいいって思ってるって事なのかな……」

(なるほど……意地を張っているだけかと思えば、淋しそうな表情の原因は主にそこか)
俺と喧嘩した時のダンもこんな事を考えていたのだろうか。
今となってはそれを確かめる術はない。

「……あいつも、そう思ってるんじゃないのか」
「え…?」

向こうもきっと同じような事を考えているのは容易に想像がつく。
エースはダンと根本的な部分が似ているから。
意地をはって自分からは言い出せないだけなのだろう。
きっと今ごろバロンにでも愚痴を聞いてもらって、似たような会話をしているハズだ。
喧嘩になってしまった事を後悔しながら。

「エースが簡単に自分から折れる性格じゃないのはお前もわかってるだろう」
「……うん」
それには納得したようで、素直な返事が返ってくる。
うつ伏せたままで表情はわからないが、声の調子は少し明るい。
「今回はお前の方から折れてやったらどうだ」
「そっか、そうだよな。俺の方から折れてやんなきゃな」
ベッドから勢いよく起き上がると、それまで浮かなかったダンの顔も大分いつもの調子に戻っていた。
本当にこいつは呆れるほど単純でわかりやすい。
それがダンの良いところでもあるのだが。
「早く行ってこい」
ぽん、と背中を軽く押してやると、少し躊躇いながらも行く決心がついたようで、そのままベッドから飛降りる。
「わかった。ありがとな、シュン!」
明るく手を振って部屋を出ていくダンを見送りながら、その後ろ姿に少しだけ胸が痛んだ。

ああ、そうか。
喧嘩をしなくなった事で逆に何故か離れてしまったように感じる心の距離。
2人の喧嘩にあの頃の自分たちを重ね合わせて、俺は嫉妬しているのだ。

そんな事を言えば、ダンは怒るだろうな。
だがそれも悪くない、などと考えてしまう自分に自嘲的な笑いがもれた。

About
Entries
Categories
Links
Montyly archives
Recommend
Feed

全文検索